序 文  まず、暗黒に歪みし者あり。歪まぬ為に。生きる為に。歪まぬ者は戦った。  戦いは強い“力”を求めた。強い“力”は勝利を約束した。そして大きな破壊を生んだ。  生き残る者は少なくなり、世界の“力”は枯渇した。  “力”の言葉を伝える者がいなくなった。  しかし、歪みし者達は残った。  歪まぬ者達は新たな力を“鋼”に求めた。優れた“鋼”は再び勝利を約束した。  だが“鋼”には意志が無かった。“鋼”は使う者を選ばなかった。  奪われた“鋼”は恐るべき脅威となった。そして大きな破滅を生んだ。  破壊ではなく、破滅が齎すものは、滅亡。  歪まぬ者達は祈った。歪まぬ為に。生きる為に。  歪まぬ者達は求めた。歪まぬ為に。生きる為に。ただ“力”を。  そしてその祈りは世界に満ち、失われていた“力”は甦った。  それぞれの祈りの中に。  “声”が聞こえた者の中に。  暗黒に歪みし者を狩り続ける者。  暗黒を破壊する者。  暗黒から自由になる者。  暗黒を支配する者。  暗黒を知る者。  暗黒を恐れる者。  暗黒を癒す者。  暗黒を裁く者。  暗黒を封じる者。  様々に。  本当に様々に。  かつて暗黒に歪みし者あり。歪まぬ為に。生きる為に。歪まぬ者は戦う。  語るのみにあらず。聞くのみにあらず。  自ら血を流した者だけが、その手に明日の命を握る。  夢と勝利と栄光と、死と敗北と挫折とは、表裏一体である事を知れ。  ともにあれ。ともにあれ。  かの世界に生きたる英雄達と。 「静かに耳を、そうっと澄ましてみればいい。  するとほら、聞こえてくる。  ほんの、小さな、精霊達の囁きが……」  ともにあれ。ともにあれ。聞こえし“声”と、ともにあれ……。 (無題の詩)  光。名誉と栄光。  朝日や、雲間から射し込む光を、清々しく感じた事はありませんか。  炎。奔放な熱情。  闇の中での炎の揺らぎが、自分に語り掛けていると思った事はありませんか。  風と水と氷。自由と知恵と開拓。  微風が鳴らす葉擦れの音や小川のせせらぎを、ずっと聞いていた事はありませんか。  地。豊穣と創造。  地面の上に横たわって、ぬくもりを感じた事はありませんか。  闇。虚無と達観。  月明かりも無い闇夜の中で、恐怖を感じた事はありませんか。  樹。戒律と交錯。  深い深い森の中で消えては生まれる命の歌を、聞いた事はありませんか。  獣。狩猟と憂慮。  広い広い大自然の中で、自然の掟を教えられた事はありませんか。  心と夢。理性と想像と洞察。  そして、自分自身の中に、今までとは違う本当の自分を、見つけた事はありませんか。  無。束縛と解放。  例え失った様に見えても、実は何も失っていない事に、気付いた事はありませんか。  囁きは面影の中に届くでしょう。                Linn Agrea  世界に在る民族を列挙した詩として有名だが、今だ紛失した題名が発見されていない為、本当に民族について歌ったものなのかどうか論議を呼んでいる。